治療法3(特殊なインプラントを使用する)
ショートインプラント
下顎臼歯部の欠損症例で、下顎管までの距離がない場合もあります。 その場合は、骨造成や骨移植を行って骨の条件そのものを良くするか、長さ8mm以下ののショートインプラントの使用を考えます。
一般的には、ショートインプラントとは長さが8mm以下のインプラントのことをよびます。
ノーベルバイオケア社のショーティ・インプラントは更に短く、長さが7mmのラインナップがあります。
インターナル・インプラントでは、インプラントの内部に接続部分を作る必要があるため、プラットフォームぎりぎりまでスレッドを作れません。したがって、ネック部までスレッドを作ることができるエクスターナル・インプラントのブローネマルクとスピーディ・グルービーに、長さ7mmのショーティはあるのです。
インターナル・リプレイスの最短の長さは8mm になっています。
ショートインプラントは短いため、わずかでも骨吸収すると脱落しますので、慎重に患者を選びます。 必ず非喫煙者に埋入します。
ショートインプラント3つの条件
- 埋入部位の骨幅は十分あることが条件です。骨幅がない尖った骨に埋入すると、術後に骨吸収をおきて、骨内7mmと短いインプラントは脱落する恐れがあるからです。
- 術中にマルチユニット・アバットメントの取り付けまでおえて、1回法とします。シンプルな手術にすることも、骨吸収を防ぐために必要です。
- 短かくて固定力に欠けますので、複数本のインプラントを連結します。
症例1
右下(6)5(4)欠損にインプラント治療を計画した。 |
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右下6の下歯槽神経までの距離は10mm程度であった。 |
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骨幅は十分とはいえなかったため、骨内の位置に気をつけながら、右下7をやや深めに埋入した。 |
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右下7には、ノーベルスピーディー・グルービー・ショーティRPx7mmを埋入、マルチユニット・アバットメント2mmをとりつけた。 |
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2本のインプラントは連結、右下インプラントブリッジ(7)6(5)をスクリュー固定した。 |
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術後3年経過したが、問題はない。 |
症例2
術前(正面) 術前(咬合面) 術前(X線写真) |
「他の医院でインプラントと入れ歯での治療をしたが、治療後も食べにくいので、正しく治療して欲しい。」と来院になった。 右下に2本のインプラントが埋入されておりブリッジで補綴されていた。これは概ね適切な治療と思われた。問題は、左下の治療であった。 おそらく、左下を切開してから、骨が細すぎることに気づき、入れられる場所に1本だけインプラントを埋入、1本ではインプラントの歯がつくれないので、前歯を5本削って、コーヌス義歯にしたようである。 磁性アタッチメントと部分入れ歯の組み合わせは、維持力が弱いので、食べる時にはずれるのである。(アタッチメント義歯は、総入れ歯で行うべきです。) |
インプラントで治して欲しいとのことであったが、左下に前医でインプラントが間違った位置に埋め込まれているので、修正ができない。 |
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骨の頂上は尖っていたので、このままでは幅が狭く埋入できない。まず、骨頂を平坦に削合した。 前方には、前医の埋入したインプラントがあり、後方にはオトガイ孔がある。 前医のインプラントとオトガイ孔をかわして、左下5にインプラントを傾斜埋入した。 |
術後(正面) 術後(上顎咬合面) 術後(下顎咬合面) 術後(X線写真) |
上顎は4本のインプラントを埋入、取り外しのコーヌス入れ歯から固定式のインプラントブリッジに変更した。
前医の治療終了が、当クリニックの治療開始になる症例が多くなってきた。 それらの技術と知識をすべて持ち合わせていないと、難易度が高い患者さんには適切なインプラント治療が行えない。 患者さんは、骨造成や傾斜インプラントの技術を持ち、多種多様なインプラントシステムを理解している歯科医を受診することで、より安心したインプラント治療が受けられると思われた。 |
極細インプラント
インプラント埋入の際には、隣の天然歯とは1.5mm以上、インプラントが隣り合う場合は3.0mm以上の距離が必要です。インプラントが天然歯と近すぎたり、インプラント同士が近接していたりすると、顎の骨に栄養がいかなくなり、骨が壊死してしまいます。そのため、インプラントを埋入するために矯正治療や骨造成を行い、埋入スペースを広げる必要がありました。
しかし、本来は身体をインプラントに合わせるのではなく、身体に合ったインプラントを選択するべき。そこで開発されたのが、極細インプラントφ3.0(ノーベルダイレクト3.0)です。直径が細いため、インプラント埋入スペースが狭すぎる場合にも対応できます。また、従来はブリッジにせざるを得なかった症例などにおいても適用可能です。
ノーベルダイレクトφ3.0の特徴
- ブリッジのように隣の歯を傷つけることがない
- 骨造成や矯正治療を行わないため治療時間が短い
【安定性や強度について】
初期固定を長さ(13mmと15mm)で獲得することで安定性を確保しています。2ピース・インプラントは破折の危険性があるため、極細インプラントφ3.0(ノーベルダイレクト3.0)はワンピース・インプラントになっており、強度も問題なく作られています。
また、骨造成を避けるため、ノーベルダイレクト3.0の表面はアバットメント付近までタイユナイト処理をされています。タイユナイトを表面に施すことで、インプラントと歯肉の境界からの細菌の侵入を防ぎ、インプラント周囲の骨吸収を防止(ソフトティッシュ・インテグレーション)。埋入深度はタイユナイト表面が一部露出するように深度調整し埋入します。これが他のインプラントの埋入方法と違う点です。
極細インプラントφ3.0による即時荷重インプラント
35Ncm以上の初期トルクを得たときには即時荷重インプラントが可能です。仮歯を天然歯でも行う従来の方法で取り付けます。手術時間は20~30分。仮歯の取り付けを行っても、わずか1時間以内の治療時間です。
術者にとっては、2~3本のドリルのみで、深度の調整、即時荷重が可能な埋入トルクを得られるインプラント窩形成、3次元的なワンピース・インプラントの埋入位置を決定しなければならないため、術式は簡単なようで非常に難しいと言えます。適応症例は下顎の前歯部、上顎の側切歯部にかぎられますが、ユニークなインプラント治療が可能と言えます。
症例2 下顎前歯部症例
下顎前歯部でインプラント埋入スペースが狭いため、ノーベルダイレクト3.0以外のインプラントは埋入不能であった。
術前 (口唇側面) (咬合面) |
術中 唇舌的な骨幅も狭かったため骨を直視して手術する必要があった。フラップ手術を行い、表面が一部露出するように埋入した。 |
術後 仮歯装着までわずか40分程度の手術時間であった。 |
症例2 上顎前側切歯症例
上顎側切歯でインプラント埋入スペースが狭かったため、ノーベルダイレクト3.0を埋入した。
術中 |
術後 術後のX線写真 |
症例3 上顎中切歯、側切歯欠損の症例
上顎中切歯、側切歯2歯の連続欠損がある症例の場合、レギュラー・プラットフォームを中切歯に埋入すると、側切歯にナロー・プラットフォームの埋入スペースがなくなる場合がある。このような場合、中切歯、側切歯の両方にナロー・プラットフォームを埋入することもできるが、中切歯にはレギュラーが適切であると考える。そこで、中切歯にレギュラー・プラットフォームのリプレイス・テーパード、側切歯にはノーベルダイレクト3.0を埋入した。
術前 |
術中 |
術後 術後のX線写真 |
下顎枝からの骨移植
a.自家骨の採取
オトガイ部からの骨採取は、下の前歯の根の先端近くからの採取になります。このため、歯の神経を傷つけるリスクがあります。一方、下顎枝という下顎の親知らずの付近は、神経麻痺のリスクが少ないと言えます。このため、下顎枝を優先して骨を採取します。
↑下顎枝からの骨採取:トレフィンバーを用いて、下顎枝をリング状に形成し自家骨を採取します。リングを重ね合わせた形状は車のアウディのマークやオリンピックのマークに似ているため、アウディデザインやオリンピックデザインとよばれます。
b.自家骨の粉砕
移植する自家骨の形状には、粉砕骨とブロック骨があります。インプラントの埋め込みと同時に骨を造成する場合は、粉砕骨を利用します。採取した骨をボーンミルという粉砕器で砕いて、インプラントの周りに追加します。
骨が大きく失われていて、立体的な形状を与える必要がある場合に、ブロック骨を利用します。移植骨への血液供給が必要なため、ブロック骨移植の場合はインプラントを同時に埋め込むことはできません。
オトガイからのブロック骨移植
大きなブロック骨が必要な場合は、オトガイから自家骨を採取することがあります。
「インプラントで前歯を治したい」と来院した。
下顎の前歯部に大きな垂直的骨欠損を認めていたため、
垂直的に骨造成をしなければインプラントは埋入不可能だった。
全層弁で剥離して、骨面を露出した。
垂直的に骨が欠損しており、このままではインプラントの埋入は不可能だった。
下方からブロック骨を採取した。
採取されたブロック骨
チタン合金製のスクリューで、ブロックを固定していく。
自家骨ブロック3個を歯槽頂にスクリュー固定した。
減張切開を行い、創を完全閉鎖した。
術後のX-P:3本のスクリューで、オトガイから採取した骨ブロックを固定した。
創の裂開や骨の露出はない。
垂直的に骨量は改善している。
仮歯を取り付けて、インプラント埋入に備える。
移植骨が既存骨と一体化するまで、4~6ヶ月の期間が必要である。
骨隆起からの骨移植
小さな欠損の場合は、骨隆起からも骨を採取できます
骨の突出部を骨隆起と言います。下顎の内側や口蓋(上顎天井)の真ん中や、上顎の奥の外側に骨隆起がある方もいます。その場合は、過剰な骨なのでそこからも採取できます。
↑骨隆起からの骨移植:下顎隆起とよばれる下顎の内側の余分な骨を採り、サイナスリフトの際に上顎洞内へ移植しました。
人工代用骨を使用した骨造成
インプラント治療で用いられる人工代用骨には、ハイドロキシアパタイトやβTCPがあります。
人工代用骨はインプラントと直接は骨結合しません。インプラントは新生骨と骨結合するため、代用骨の間に新生骨を形成させる必要があります。そのため、代用骨の形状は、ブロックではなく粉末状です。
比較的小さな骨欠損には、自家骨は必要ではなく、人工代用骨で十分な場合もあります。人工代用骨のみで骨造成を行うので、インプラント埋入以外の手術はしなくて済みます。
↑抜歯即時荷重インプラント埋入術:悪くなった左上犬歯を抜いた直後にインプラントを埋め込みました。外側の骨が裂開していたため、血液を加えた人工代用骨を填入し、吸収性メンブレンで覆って創を閉鎖しました。