ブローネマルク・インプラント以前
国内でブローネマルク・インプラントが認知されるまでは、サファイアインプラント、骨膜下インプラント、ブレードインプラントなどが使用されていました。 しかし、当時のインプラントは、とても成功する製品ではありませんでした。 当時主流の素材であった人工サファイアは骨と結合しないので、サファイアインプラントは隣の歯とつなげられたのです。ブリッジでの治療のように、つなげられた隣の歯まで悪くなることがあり、サファイアでは良い結果を得られませんでした。 インプラントが成功するようになったのは、素材が骨と結合するチタンに変わってからです。
純チタン製のブローネマルク・インプラント・システムへ進化(1983年~)
(ブローネマルク・インプラント:スウェーデンで製品化された世界初の実用インプラントシステム) 日本に成功するインプラントがはじめて導入されたのは、1983年以降です。世界初のインプラントシステムであるブローネマルク・インプラントが国内で臨床応用されたのです。 ブローネマルク・インプラントは素材が純チタン製で、部品がフィクスチャーと呼ばれる歯の根の部分と、アバットメントとよばれる被せの土台の部分にわかれ、それらをネジで繋ぎ合わせる初の「インプラント・システム」です。
それまでのインプラントは1本の棒にクラウンを被せるもので、「システム」ではありませんでした。 システムになったことで、フィクスチャー(根の部分)が骨結合してからアバットメント(冠の土台の部分)を取付けられます。治療行程を段階的にできるので、成功率が上がったのです。 国内初の臨床応用から普及までは時間がかかっています。 私が大学病院口腔外科の入局した1990年に、ブローネマルク・インプラントが医局に導入されました。その頃のブローネマルク・システムは数百万円もして、大変高価なものでした。 高価だったブローネマルク・システムには、ブローネマルク・インプラント講習会受講のチケットが2名分付いていました。それに参加しないと、フィクスチャー(インプラント体)を販売してくれないという敷居の高いものでもありました。 ブローネマルク・インプラントは、当時の歯科医師には高価で複雑、理解しにくい製品でした。 手術は、埋め込みと頭出しの2回に分けて行うことが原則で(二回法の術式)、パーツの種類が多く、分厚いマニュアルを見るも苦労しました。 20年前は、歯科医師全員がインプラントの初心者であり、ブローネマルク・インプラントは難しかったのです。 ブローネマルク・インプラントには、もうひとつ問題点がありました。 当時のブローネマルクの表面は、現在の粗造表面と異なり、機械加工表面でした。 機械加工表面のブローネマルクは骨結合を起こしにくかっため、骨が硬い下顎骨専用のインプラントとも言えました。
粗造表面の一回法インプラントへの進化(1998年~)
1998年から、ブローネマルク・インプラントの複雑で骨結合しにくいという短所を克服したITIインプラント(現ストローマンインプラント)が国内でも発売されました。ITIインプラントは、粗造SLA表面で骨結合しやすく、1回の簡単な手術法(一回法の術式)ですみました。 多くがインプラント初心者だった当時の歯科医師には、受け入れやすいインプラントでした。 (スイス製のITI(現ストローマン)インプラント失敗が少なく、術式が簡単)
ブローネマルク型インプラントが粗造表面へ進化
ITIインプラントは使いやすく、失敗が少ないインプラントでしたが、多くの歯の治療や、前歯のような審美的な部位の治療には向かないインプラントでした。 そこで、複雑な症例にも対応するように、ブローネマルク・インプラントの形状をコピーし、粗造表面オッセオタイトに加工した3iインプラント(現バイオメット3i)が2000年ころに普及しました。 3iオッセオタイト・インプラントは、ブローネマルク・インプラントとITIインプラントの両方の長所を持ち合わせていたのです。
(⇒オッセオタイト・インプラント:先端から7割が粗造オッセオタイト表面、ネック付近の3割が機械研磨であり、当時の機械研磨ブローネマルク・インプラントよりも性能が良かった。)
ブローネマルク・インプラントも粗造表面に進化(2001年)
粗造表面タイユナイト それまで機械研磨表面を堅持したブローネマルク・インプラントの表面は、粗造表面タイユナイトに改良され、2001年国内でも発売されました。 これにより、機械研磨vs. 粗造表面の議論はなくなりました。すべてメーカーのインプラントの表面が粗造表面になり、機械研磨よりも粗造表面の利点の方が多いと決着がついたのです。
インプラントの形状の進化(2003年~)
ブローネマルク・インプラントは、パラレル形状、エクスターナル接続のインプラントでした。 (⇒インプラントは、パラレル形状でエクスターナル接続のブローネマルク・インプラントからはじまった。) 歯と歯の間には、歯と同じように先が細くなった形状(テーパード)の方が埋め込みに有利です。また、しっかりインプラントを軟らかい骨に固定するにも先細り(テーパード)の形状が有利です。 そこで先細りのテーパー形状のインプラントが開発されました。 ただし、最新のガイデッド手術には、ストレート形状の方が向いているので、今後の形状の主流は不明です。
(⇒インプラントの形状は、はじめはまっすぐ(パラレル形状,左)のインプラントだったが、テーパード・インプラント(右)が追加された。)
アバットメント接続の進化1(垂直的な接続様式の進化)
インプラントは骨の中に入るフィクスチャーと呼ばれる部分とフィクスチャーに接続されるアバットメントと呼ばれる2つのパーツにわかれます。
(⇒インプラントは、フィクスチャーとアバットメントという2つのパーツで成り立っている。そのインプラントにクラウンを被せて出来上がる。)
この接続は、インプラントが凸になっているエクスターナル接続よりも、凹になっているインターナル接続の方が、ゆるみにくく、取り扱いやすいことが解ってきました。 そこで、インターナル接続のインプラントが開発されました(2003年)。
(⇒左から、エクスターナル(1983年)、インターナル(2003年)、コニカル接続(2010年) インプラントの接続は進化している。)
しかし、エクスターナル接続もインターナル接続も、フィクスチャーとアバットメントをネジの力だけで止める単純な接続です(バットジョイント)。 このため、インプラントとアバットメントの間には、マイクロギャップという隙間を認めます。この隙間は非常に小さいものですが、噛む力でアバットメントは揺さぶられ、細菌がインプラントの内部に出入りします。細菌の大きさは2μmなので隙間に入り、炎症や骨吸収の原因になる可能性があるのです。
(⇒お口の中の細菌の大きさはわずか2μmで、インプラントとアバットメントの隙間を通過することができる。)
そこで、その隙間をつくらない接続が考えられました。コニカル・コネクションやモーステーパー・コネクションと呼ばれる接続様式です。
(⇒マイクロギャップ・コントロール:インプラントとアバットメントの接続に斜面を付けると緊密な接続になり、細菌の侵入がなくなる。)
アバットメント接続の進化2(水平的な接続様式の進化)
ストローマン・インプラントは、ブローネマルク・インプラントと比べて、インプラント周囲の骨の吸収が少ないことがわかっています。 ストローマン・インプラントで骨吸収が少ない理由は、インプラントとアバットメントの接続部分が骨の上(歯ぐきのレベル)にあるからです。 インプラントとアバットメントの接続が近い場所にあると、インプラント周囲の骨が吸収しやすいことが近年の研究で解ってきました。 歯ぐきのレベル(ティッシュレベル)に接続部分があると審美的な治療をしにくいことが欠点ですが、骨の吸収が少ないことは利点なのです。
(⇒ストローマン・ティッシュレベルTLは、骨の吸収が少ない)
最近のインプラントは、アバットメントとの接続が骨のレベルにあります(ボーンレベル・インプラント)。 歯ぐきの厚みは2mmありますが、この2mmを利用して、断面が円のインプラントの形を歯の形に近づけます。
ボーンレベル・インプラントでは、歯ぐきの厚みを利用して、断面が円のインプラントの形を天然の歯の形に近づけることができます。 そのためには、インプラントとアバットメントの接続は骨と同じレベルにないといけないのです。 しかし、接続面を骨と同じレベルにすると、周囲の骨が吸収してしまいます。 それを解決できるのが、プラットフォーム・スイッチングです。 プラットフォーム・スイッチングとは、アバットメントの直径をインプラントの直径よりも小さくすることです。そうすることで、接続部を骨から遠ざけ、骨吸収を防いでいるのです。
今後のインプラントの進化
これからはどうなるか、予想をしてみました。
より早く骨結合する粗造表面性状に進化
骨結合までの時間を短縮できる表面性状が開発されるでしょう。 感染リスクの高いHAコーティングのインプラントは消滅するでしょう。
ジルコニア製のインプラントが追加される
チタン合金製のインプラントは消滅して、純チタン製に統一されるでしょう。チタン素材以外のジルコニア製のインプラントが登場するでしょう。
フィクスチャーとアバットメントの緊密な接続様式
細菌の侵入をゆるさないコネクションに統一されるでしょう。ブローネマルクのようなエクスターナル・インプラントは継続販売のみになるでしょう。
プラットフォーム・スイッチング
水平オフセットをもつインプラントが主流になるでしょう。 ワンピースインプラントは再度消滅するでしょう。
多くの製品がまとめられる
プラットフォームごとの色分け、ドライバーの種類、マルチアバットメントの規格などが各社の製品でまちまちなので、規格が統一されていくでしょう。