- 根管治療の重要性と進歩
- 顕微鏡を用いた根管治療
- 根管治療の成功率を
新旧術式で比較すると - 根管治療とインプラントの
成功率の比較 - 被せ物も根管治療の
予後を左右する - 病院で歯根端切除手術を行ったが、治癒しなかった2根管性の下顎第一小臼歯
1) 保存的な根管治療の場合…
「根管治療の成功における新旧治療方法の比較」
従来の治療法の生存率は98%、現代の治療法は96%であり、有意差を認めなかった。
術後に再介入が必要であった歯は、従来法6.7%, 現代法0.7%であり、従来法において術後の再介入が有意に多かった。
保存治療の場合 | 従来の根管治療 | 現代の根管治療 |
---|---|---|
1. 顕微鏡 | × | ○ |
2. NiTi回転器具 | × | ○ |
3. 超音波器具 | × | ○ |
4. 根管長測定器具 | × | ○ |
5. 洗浄薬 | NaOCl + H2O2 | NaOCl + EDTA |
6. 根管充填 | 側方加圧 | 垂直加圧, 側方加圧 |
通院回数 | 2回以上 | 通常1回 |
生存率(%) | 98% | 96% |
保存的な根管治療の場合、生存率に有意差がなかった。従来の治療でも、成功率は98%と高いため、成功率の差が出にくかったと思われる。また、根管治療の成功には、個々の根管の複雑な形状や、術者の技術など、他の様々な要素があるため、統計的な有意差が出なかった可能性がある。
ところで、この論文では、科学論文のレビューを用いて結果を出している。日本の保険での根管治療は、治療費が欧米に比べて患者負担額1/30程度(アメリカで10万円の治療を、日本では3千円で受けられる)と非常に安価なため、従来型根管治療の成功率はこのデータよりずっと低いと予想される。そのため、現代の根管治療を行うことによって、保険での低い治療成績が向上すると思われる。
Comparison of classic endodontic techniques versus contemporary techniques on endodontic treatment success.
Fleming et al. J Endod. 2010 Mar;36(3):414-8
現代の根管治療に必要な機器と薬剤
- 1. 顕微鏡と拡大視野
- 2. NiTi回転器具
- 3. 超音波器具
- 4. 根管長測定器
- 5. 次亜塩素酸ナトリウムとEDTAで洗浄
- 6. 垂直加圧根充
7. コーンビームCT
海外論文での最初の根管治療(抜髄)の成功率は90~95%です。一方、日本での根管治療の成功率は、日本歯内療法学会誌に掲載された論文から推測されます(「わが国における歯内療法の現状と課題」須田英明 日歯内療誌 32(1):1~10. 2011)。
東京医科歯科大学病院の外来患者の根尖病巣発生率を調べたところ、45~70%に根尖病変がみられたと報告されています。言い換えると、日本での根管治療の成功率は、30~55%であると推測されます。
また、社会保険庁のレセプトデータでは、年間約1,350万本の根管治療が行われています。抜髄が約600万本であり、感染根管処置が約750万本という状況です。保険の治療では、最初の根管治療(抜髄)の多くが失敗し、再治療(感染根管処置)になっていることがわかります。
日本では安価で旧式な保険の根管治療が行われているため、成功率は30~55%の低さと言えます。しかし、マイクロスコープ(手術用顕微鏡)、CT、Ni-Tiファイル、ラバーダム、超音波などを用いた現代の根管治療を行うことによって、成功率は大きく改善する可能性があると考えます。
2) 歯根端切除手術の場合…
「従来の歯根端切除手術と顕微鏡下のマイクロサージェリーとを比較したメタ解析」
歯根端切除手術の成功率は、従来法で59%, 現代法で94%であり、顕微鏡下マイクロ手術の方が有意に高かった。
歯根端切除術の場合 | 従来の手術法 | 現代の手術法 |
---|---|---|
顕微鏡 | × | ○ |
逆根管形成 | 回転切削器具 | 超音波器具 |
逆根充剤 | アマルガム | MTA |
生存率(%) | 59% | 94% |
外科的歯根端切除術の場合、最新機器を使用すると生存率の有意な差を認めた。
保存的な根管治療では、顕微鏡を使用しても根尖や根管孔の外を完全に視野には入れにくいと言える。
一方、手術による根管治療(歯根端切除術)では、顕微鏡を使用することにより、根尖付近を完全に視野に入れることができる。
術野を完全に視界に入れられることで、歯根端切除の治療成績が向上したと考えられる。
Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature--part 1: Comparison of traditional root-end surgery and endodontic microsurgery. Setzer et al. J Endod. 2010 Nov;36(11):1757-65
- 顕微鏡で観察しながら、歯根嚢胞を摘出した。
- 歯根嚢胞を認める
- ファイルを挿入、根管長測定。
- 歯根端切除、根管充填