根管治療とインプラントの成功率の比較

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根管治療とインプラントの比較

根管治療とインプラントはどちらが成功率が高いのでしょうか?

Doyleらの研究によると、根管治療後の歯とインプラントとの生存率は似通っていましたが、インプラント群では噛めるまで長い時間がかかり、介入が必要な術後の合併症の発生率が高いと言えました (Doyle et al. J of Endod 2006)。

長期間経過すると、根管治療が失敗した歯は、破折や根尖病巣を伴っており、治療不能で抜けてしまうため、介入すらできません。一方、インプラントは周囲炎になってもなかなか脱落しないため、何らかの介入処置をしながら経過を観察しているということだと思います。

根管治療とインプラントはどちらが成功率が高いのでしょうか?

緑線根管治療(Non-Surgical Root Canal Treatment)の生存率。赤線インプラントの生存率。
両者は似通った生存率を示した。

Retrospective Cross Sectional Comparison of Initial Nonsurgical Endodontic Treatment and Single-Tooth Implants. Doyle, S.L. et al. Journal of Endodontics, (2006) 32(9), 822-827.

その他のインプラントの成功率に関しての論文を読んでみます。

インプラントの成功率は95%でなく、本当は85%?

インプラントの成功率は95%と言われています。これはインプラント成功の定義の従っていて本当に95%です。しかし、インプラント成功の定義自体が、実際の臨床で起きる状態よりも、かなり甘く設定されていることをご存知でしょうか?

科学論文 1

インプラントの成功の定義では、オッセオインテグレーションしなかったインプラントは評価の対象になっていない。

Smith & Zarbの論文「骨内インプラントの成功の定義」によると、骨結合(オッセオインテグレーション)したインプラントだけが評価されるようになっています。すなわち、インプラント埋入手術後に、骨結合しなかったインプラントは、そもそも評価の対象から外されています。(Smith & Zarb J Prosthet Dent 1989)

1. 骨結合を獲得したインプラントのみを評価すべきだ。(術後に骨結合しなかったインプラントは除外されている。)
Only osseointegrated implants should be evaluated.

以下の2~9の状態も、「骨内インプラントの成功の定義」から除外されています。

2.  スリープ中(機能させていない)のインプラントは除外した方がよい。Sleeping implants, preferably not be included.

2. スリープ中(機能させていない)のインプラントは除外した方がよい。
Sleeping implants, preferably not be included.

3.上顎洞や鼻腔、下歯槽神経への穿孔は失敗とは考えない。Perforation of sinus, nasal cavity or mandibular nerve canal are not considered failures.

3.上顎洞や鼻腔、下歯槽神経への穿孔は失敗とは考えない。
Perforation of sinus, nasal cavity or mandibular nerve canal are not considered failures.

以下のハイリスク患者は除外されている。
Patients with a high risk of implant failure should be excluded.

4. 喫煙者の失敗率は31%なので除外する。(Brain & Moy, JOMI 1993; deBruyn & Colbert COIR 1994

4. 喫煙者の失敗率は31%なので除外する。
(Brain & Moy, JOMI 1993; deBruyn & Colbert COIR 1994)

5. アルコール依存症は、喫煙者よりインプラント周囲の骨喪失が多いので除外する。(Galindo-Moreno et al. COIR 2005)

5. アルコール依存症は、喫煙者よりインプラント周囲の骨喪失が多いので除外する。
(Galindo-Moreno et al. COIR 2005)

6. タイプIVの不良骨質は、失敗率が16~35%なので除外する。(Jaffin & Berman, JOMI 1991)

6. タイプIVの不良骨質は、失敗率が16~35%なので除外する。
(Jaffin & Berman, JOMI 1991)

7. 口腔衛生不良患者は除外する。(Schou et al, COIR 2002; Jovanovic SA, Adv Dent Res, 1999)

7. 口腔衛生不良患者は除外する。
(Schou et al, COIR 2002; Jovanovic SA, Adv Dent Res, 1999)

8. 歯ぎしり患者は除外する。(Johansson & Palmquist, Int J Proshodont, 1990; Misch CE, Dent Today, 2003)

8. 歯ぎしり患者は除外する。
(Johansson & Palmquist, Int J Proshodont, 1990; Misch CE, Dent Today, 2003)

9. 糖尿病などの医学的疾患を有する患者は除外する。

9. 糖尿病などの医学的疾患を有する患者は除外する。

Criteria for success of osseointegrated endosseous implants. Smith DE, Zarb GA. J Prosthet Dent. 1989 Nov;62(5):567-72.)

あらかじめ、失敗要因を有する患者に埋入したインプラントは考慮に入れず、手術手技の失敗を伴うインプラントも考慮に入れず、機能に耐えれないためスリープ(免荷)中のインプラントも除外している定義になっています。あらゆる悪条件を除外しており、更に、手術後に骨結合(オッセオインテグレーション)を獲得しなかったインプラントも除外しています。
骨結合に成功した理想的なインプラントだけを考察し、その10年後の成功率が95%だと言っているのです。科学的なデータですが、かなり甘いクライテリア(定義)と思いませんか?

それでは、インプラントが骨結合しない確率はどのくらいなのでしょうか? 論文2を読んで行きましょう。

科学論文 2

インプラント残存率の測定開始時期を、埋入時(85.3%)と荷重時(95.6%)で比較すると、は10.3%の差が発生する

「荷重後」から測定すると、残存率95.6%

2900本のインプラントを、32の研究センターで3年調査した。36ヶ月間のインプラントの残存率を、フィクスチャー(人工歯根)埋入手術を行なった時期から測定すると、上顎無歯顎患者では残存率は85.3%であった。
一方、補綴物(人工歯冠)を装着してから測定すると、残存率は95.6%であった。
「埋入後」と「荷重後」では、残存率に10.3%の差があった。

(「埋入後」と「荷重後」の残存率の差は、上顎1本欠損の場合4.1%下がり、下顎臼歯部では、5.8%下がる。上顎無歯顎症例は、条件が悪い場合が多いため、残存率が10.3%も下がる。)

(Influence of two different approaches to reporting implant survival outcomes for five different prosthodontic applications. Morris HF, Ochi S Ann Periodontol. 2000 Dec;5(1):90-100.)

インプラント治療の成功率は95%と言われていますが、それは問題のある患者と問題のある手術を除外し、骨結合を獲得した状態からカウントした95% です。
実際の臨床では、条件の悪い患者さんに手術を行うことが多いといえます。条件の悪い手術を除外せず、全ての手術を測定の対象とすべきかもしれません。そのような環境では、インプラントの成功率は95%を大きく下まわり、85%以下になる可能性があると考えます。

それでは、どのような時にインプラント治療を考えるべきなのでしょうか?
歯を既に失っている場合は根管治療ができません。したがって、インプラント治療が第一選択になります。
また、フルアーチのインプラント治療でよく起きるのですが、残った数本の歯を抜かないことで、治療法が複雑になったり、コストが高くなったり、近い将来さらに追加のインプラント埋入が予想される場合は、抜歯してインプラント治療を考えることもあります。

天然の歯に行う根管治療と人工の歯を植立するインプラント治療を比較することには、そもそも無理があります。しかし、治療が可能な歯が残っている場合は、あきらめずに、根管治療を試みることも必要かと思われます。

根管治療 vs インプラント治療

1) 根管治療とブリッジ補綴

  • before after

前歯が悪かったが、両隣の歯も治療しないと綺麗に並ばないと予想された。
インプラントではなく、支台歯に根管治療を行い、ブリッジで治療した。

2)インプラント治療

  • before after

事故で前歯が破折して来院した。
両隣の歯は無事であったため、ブリッジでなくインプラントで治療した。

根管治療(94.0%)とインプラント治療(95.0%)の生存率には、統計学的に根管治療(94.0%)とインプラント治療(95.0%)の生存率には、統計学的に有意差はなかった。
悪くなった歯に根管治療を行って歯を保存するか、抜歯してインプラントに置き換えるかは、治療法の予知性からではなく、他の要因による。
The results of this systematic review indicate that the decision to treat a tooth endodontically or replace it with an implant must be based on factors other than the treatment outcomes of the procedures themselves.

For teeth requiring endodontic treatment, what are the differences in outcomes of restored endodontically treated teeth compared to implant-supported restorations Iqbal MK, Kim S. Int J Oral Maxillofac Implants. 2007;22 Suppl:96-116.)